オメガ3ユーザーの家族より
2009年8月29日午後3時過ぎ、仕事場の電話が鳴りました。
『交通事故に遭ってしまった』
という、半泣きの妻の声……、
急いで仕事を片付け、走って5〜6分の現場へ急行しました。
数ヶ月前に、やっとの思いで購入したオメガ3、大喜びの妻は、雨でも降らない限りほとんど毎日のように、今日は図書館、
明日はショッピングセンターといった具合で、お出かけを楽しんでいました。
車イスに乗っていらっしゃる方なら、誰しもが経験しておられると思うのですが、クルマ側の理不尽で勝手な動きと、不注
意極まりない歩道側への無配慮……、歩行者の権利がどうのこうのというよりは、自衛的に「たぶん見てないな」とか
「あやしいから止まって待っていよう」とか、日頃から危険回避には細心の注意をはらっていないと安全は保てません。
現場では、既に交通課の警察官数人と、救急車がピカピカと非常灯を回転させ停まっていました。
『電話の声ではよく分からなかったけれど、怪我の程度は??』
一瞬心が曇りましたが、すぐに妻の顔が見え、さすがに笑顔ではなかったけれど、痛み苦しんでいる様子ではなく安心しま
した。
経緯を聞くと、
T字路交差点、相手はTの左側から→↓下側へ向けての右折車両、
妻は、『どうもこちらを見ていないな…
…』と、警戒しながら、Tの右から←左へ向けて横断歩道を渡るところ、信号は青。
案の定、横断歩道に突っ込んできたので、急停車したのですが回避できなかったと……、
妻に落ち度は全くありませ
ん。
歩行者信号「青」の横断歩道上での、右折車両と、電動車イスの接触事故。
どうみても分が悪いせいか、若い運転手さんは平身低頭で、決していやな感じではありませんでしたし、妻の怪我も一応そ
の時点では外傷もなく、痛みもさほどではありませんでした(そのあと1カ月くらいは痛みが続きましたけど……)。
ただ、オメガ3だけが、自慢の昇降ステップが無惨に曲がり、修理が必要な状態でした。
しかし、
『ああ、このくらいで済
んで本当に良かった』
これが、正直なその時の僕の気持でした。
そして、
『オメガ3にしていて本当に良かった、これが
普通の電動車イスだったら……』
と、心底思いました。
さて、こういう時に、一般的に身障者のご家族の方はどう思われるでしょうか??
僕の周りの人、妻の兄弟・姉妹であると
か、友人だとか、そのほとんどの人は、
『だから危険だっていつも思っていたのよ』
『どこにでも独りでフラフラ勝手に出て行くから』
『電動車イスなんてやめなさい』
……などというのがほとんどでした。
僕は、これは絶対に間違っていると思います。
先ず、電動車イスで移動することは、決して危険なことではありません。
身障者が移動する手段としては一番安全ではありませんか??
手押しの車イスを健常者が介助して押していたとして、今回の事故が回避できたとは到底思えません。被害者がもう一人増えただけでしょう??
(妻は無理ですが)自走車イスだとしたら、もっと不安定ですから危険だったと思います。簡単に転倒してアスファルトに叩きつけられ大怪我をしているでしょう。
そもそも、『危ないから外へ出るな』という考えが根底にあるからなのでしょうが、しかし、それはいかがでしょうか??
オランダの歴史学者のホイジンガーさんが提唱した概念に、
『ホモルーデンス』というのがあります。
「遊び」を他の動物と違った人間の特質だ……というのです。
生産性がなく、何の益にもならないことに一生懸命になれる。
スポーツとか、音楽・ダンスなんていうのは、他の動物にはどうにも理解できない愚かな行為なのでしょう??(あ、しかし古くから人間の友として生きてきた「犬」だけは少し違って、遊びを理解しているような節がありますね??)
「生きていく上に有益で必然なこと」
そういうことだけをしていれば……それでよい、とはいかないのが人間だと思うのです。
それを、とてもよく理解していてくれて、
電動車イス作りに人生をかけてくださっているのが、
アローワンの西平社長だと思います。
アローワンの電動車イスには、生きていくことを楽しむ遊び心を支える気持ちがいっぱいつまっています。
それは、安定した動き、確実な動作による安全です。
根底にそれがなければ、遊び心は生まれてきませんから。
先ほど、今回の事故で、
『ああ、オメガ3にしておいてよかった』
というのは、その卓越した安定性と安全性です。
一般の電動車イス、家族の方は、走る姿を後ろから観られたことがあると思います。キャスターを含めて四輪のように見えますが、実は物理的にはサスペンションのないキャスターはほとんど役にたっておらず、実質2輪走行です。
少しでもギャップを動輪がひろうと、たちまち片輪の1輪走行になってしまいます。おまけに、一般的な電動車イスは車軸の位置がオメガ3よりもはるかに高い位置にあるため、1輪走行になった場合、簡単に転倒してしまいます。
今回の事故のような、横方向からの力を加えられると、あっけなく障害者は車イスから放り出される結果となると思います。
その点、オメガ3は、サスペンションで四輪が独立して設置している状態を、極めて安定して保っていますし。車軸の位置が低く重心も低いため、倒そうとしても簡単に倒れるものではありません。
たいへんに安全な車イスです。
ずっと以前に、気のおけない車イスの友達数人とお酒を飲んでいる時に、ぶしつけにも僕はこんな質問を皆にしてみました。
『もしも、神様が、【障害は今のままだけれど、その他の疾病はなにも無く、これから健康で快適な人生を90歳くらいまで保証する】というのと、【あと1カ月、の命だけれど、その間は思いっきり普通に走って跳んで、普通にスポーツが出来たり何でも出来る身体にしてあげる】……っていうのと、どちらか一つを選択しろって言われたら……どっちにする??』
ずいぶん、残酷な質問をすると思われるかも知れないけれど、かなり親しい、こういう質問をしても問題のない友達ばかりでしたので、
解答は、全員(20代前半から30代前半までの5〜6人でした)が、
『そりゃあ、1カ月、何でも普通に出来る身体の方がいいに決まっている、いや1カ月じゃなくても、2週間でもいいよ』
僕は、やはり驚きました、
いや、そういう解答が来るだろうという予想はありましたが、正直、ここまで何の躊躇もなく全員が即答するとは思ってもいなかったのです、
かなり悩むだろう……と、
妻も含めて、障害のある人間の気持、その本当のところを、まだまだ全然理解していなかったと……つくづく思うに至りました。
ということで、オメガ3あるいは、他のアローワンの製品の購入を迷っていらっしゃる家族の方に、まだまだ『分かっていない』僕が言える事は、
もしも、
『障害者の可能性を広げ、短くてもいいから、快適で遊び心にあふれた人生を送らせてあげたい』
と、願うのであれば、
そのための安全性と安定性を最高の水準で備えているのは、僕が今まで見てきた沢山の電動車イスの中では、オメガ3が最高であり、他のアローワンの製品も(僕はオーナーではないけれど)
きっとそうだと思います。
そしてもしも、アローワンの電動車イスは高額だ……と感じられる人がいるとしたら、
それは違います。
今回の事故で、痛感しました。
僕も、きわめて世俗的に平均的な(たぶん)収入しかない人間です。
確かに、オメガ3を購入するのは楽ではありませんでした。
しかし、今回の事故、オメガ3に買い換えていなくて、従来の電動車イスで転倒し大怪我をしていたら……どうでしょう??
想像しただけで、ゾッとしてしまいます。
そして、それはあり得た事でした。
でも、その悲劇は避けられました。
今日も、妻は元気にショッピング・センターに行き、セール品の物色に余念がありません。
その笑顔は、間違いなくオメガ3に支払った額で得られたのです、
決して高額とは思えません。
よく、
『それではクルマよりも高い!!』
という意見を聞きます。
当たり前ではないでしょうか??
健康な人間が乗る、量産ベースの自動車と、
それがなくては移動もままならない障害者が、ごく少数の生産台数で供給を受ける電動車イス。
費用対効果を考えただけでも、金額側だけの比較が意味のなさないことが分かります。
価値観の違いというのは、発想の転換でどうにでも変わります。
渋滞で、軽自動車の後ろに並んでいるベンツを見て、
『もったいない、オメガ3が何台買えるか!?』
……と、考えることもできるわけです。
『メーカー・サポートが、近くで受けられないと、故障やなにかあった時に不安だ』
……と考えていらっしゃる方、
障害者の家族となった以上は、身の回りの世話と同様に、車イスの世話もある程度は、自分たちでするものだと考えましょう。
パンク修理や、ちょっとした調整は、自分で憶えていきましょう。
やってみれば、パンク修理も、バッテリー交換も、そんなに難しいものではありません。
ただ、工具は必要です。
出来るだけ工具はそろえておく必要があります。
そして、あとは電話かパソコンがあれば、アローワンの社長様が、親切にやり方を教えてくださいます。
僕も、何度か写真入りの解説書を送ってもらい、調整をして、より快適な車イスに整備することが出来ました。
車イスに障害者の求めるものは、それぞれ違います。
たとえ同じ病気や障害でも、必要とする条件は個々違ってくるわけで、誰にでも乗りやすい普遍的な車イスのスタイルというのはありません。
アローワンの車イスは、その特殊な厳しい要求を多く満たしてくれているものではありますが、それでも細部にいたっては、それぞれの求めるものに合わせて、自分たちが調整していくのが理想だと思います。そしてそれを実行するのは家族以外にありません。
ご心配要りません。
必ず、アローワンの社長様は最大限のバック・アップをしてくださいますので、安心して購入してかまわないと思います。
ただ、
実行するのは、他人任せではいけません。
出来る事は、家族がやりましょう。
そして、それが出来ると、機械いじりが苦手な人でも、必ずいい気持になれるはずです。
だって、
家族の『笑顔』は、
こんなに気持ちのいいものは無い筈ですから……。
健康な人間の乗るクルマに支払うお金が高いか??
障害者の脚となる車イスに支払うお金が高いか??
買ったものの世話は売った人がするべきと考えるか、
車イスを含めて、障害者の身の回りの世話は自分ですると考えるか、
他人を変える努力よりも、
世界を変える情熱よりも、
自分が変わることの方が、もっと簡単で爽やかになれるものだと思います。
僭越ながら、
アローワンでの車イスの購入を迷っていらっしゃる方がいらしたら、
少しでもその参考になればと拙文記してみました。