乗れない電動車椅子を乗れるように改造
(ジョイスティックレバーの操作力を軽くしました) |
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一般に市販されている電動車椅子は、通常の操作力を想定してつくられている。
この操作力を極限まで軽くすることにより、「乗れない」車椅子を「乗れる」車椅子へと変身させた。 以下は、その詳細である。 |
もくじ: 1.「この車椅子では乗れないんです」
2.15分の操作実験
3.心配事
4.決断
5.改造
6.微調整
1(ジョイスティック制御部と電源スイッチ)
7.微調整 2(座り心地)
8.成果 |
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1. |
「この車椅子では、乗れないんです」 (もくじへ戻る)
06年10月5日にH病院に立ち寄った。その時、Aさんからせっかく新車を買ったのに、これでは乗れないので、今まで乗っていた旧型の電動ローバーをもう一度乗れるように直してほしいとの依頼を受けた。お話を聞くと、このたび新たに購入された車椅子も、手・指先の力がないAさんに合わせて、ジョイスティックの操作力、電源スイッチボタンの軽量化を図ったものであるにもかかわらず、「乗れない」ということは、本人のわがままだということで、病院の方も困っておられたところである。(わがままでないことを後に証明された。)
Aさんは毎日病院の中を検査など治療のために、エレベータも使って100m位は移動をする為、電動車椅子が移動手段としては唯一無二の物であるそうである。それが思うようにそれが思うように操縦できないという事であった。
Aさんに合うように改造する為には、少し実験をしないと判断が難しいため、その場でPT室の横の部屋を借り、実情を把握するため、Aさんに乗っていただき操作力の実験を15分ほど行った。Aさんは実験に長く付き合える体力がないので、この後ベットで休んで頂き実験改造に4時間を頂き、旧型電動ローバーの改造をして、試乗して頂いた。 |
2.
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「15分の操作実験」
まず操作制御部の操作力を極力小さくなるような実験を行った。このとき気が付いたのが、Aさんにとってはジョイスティック・レバーの防水用についているゴムのジャバラさえ操作力の邪魔になるということであった。この対策として、ゴムの部分を切り取り、抵抗を減らし、さらにレバーを支えるバネの力を弱めに調整し、最後にレバーから中までプラスチックが詰まった構造のプラスチック製のノブを取り外し、ビニール製の軽いノブに付け替えた。
その他にも、Aさんのお話を聞くと、まず足掛けの位置が悪く、座った時に体が安定しないそうである。もう少し具体的に聞いてみると足掛けから背もたれまでの距離が短すぎて足が前から出すぎるか、足を合わせると、背中が窮屈になってしまうということであった。さらに、肘掛の高さも幅もしっくりこないということであった。しかし座位の実験改造はここですぐには出来ないので、コントローラーのレバー部の改造のみで、4時間後に食堂内を少し動き回ってもらい、動作の確認を終わった。 (もくじへ戻る)
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3.
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「心配事」
実験の結果、改良の可能性は十分あるが、Aさんの体力・気力がどれくらい続くかが不明の為、改造に踏み切るかどうかの判断が難しかった。Aさんに対しても、今回は実験だけであり実用は出来ない旨を説明した。さらにシーティングが改善されなければAさんが座って耐えられる時間は15分もなく、費用をかけて改造するかどうかはAさんとご家族と相談して決めて頂くしかないと伝えた。担当のPTも、家族の負担が大変なのでこれ以上の改造は望ましくないというご意見だった。
その後「もう一度見に来てほしい」というご本人から葉書の連絡があったので11月16日再度立ち寄った。この日はAさんの体調が悪く、ベッドに寝たままで5分くらい話を伺っただけ終了した。私(西平)の感じとしては、ご本人にもう少し気力がないと、改造の件をこれ以上進めるのは無理だという思いが強くなった。
年が明けて1月7日、Aさんから再度、手紙を頂き「以前に旧車椅子で実験したコントローラーを新しい車椅子に乗せ換えてほしい」という依頼を受けた。私としては、今のAさんの体調等考えると、Aさんが乗れるような車椅子にすることは、電動車椅子を1台製作するより大変な作業である。決してついでの折りにちょこっとできる作業ではない。どうしようかと正直言って返事に窮していた。 (もくじへ戻る)
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4.
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「決断」
さらに10日ほど後の1月17日、Aさんのお姉様から電話が入り、Aさんにもう一度電動車椅子に乗れるようにしてほしいと強いお願い依頼があった。お姉様からの話で、Aさんが本気で望んでいることが伝わってきたので、製作することを決心した。製作にあたり、内金を入れて頂き、社内で事前準備作業に取り掛かった。約2週間かけてコントローラーの操作制御部を最大に軽量化した物を製作し、Aさん訪問を2週間後の2月5日として予定を組んだ。(もくじへ戻る)
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5.
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「改造」
2月5日早焼に、京都のアローワンをサービスカーにて出発。車には改造したコントローラーの他に、電動工具、各種部品を積み込んだ。昼前の11時、H病院に到着し、ベット上のAさんと面談した。当日はご本人の入浴日のため、これまでの調査により判明している点について改造を始めた。
新しい電動車椅子から既存のコントローラー類を取り外して、あらかじめ弱い力で出来るように改造して持参してきたパイロット・コントローラーに乗せ換える。そのためには取付金具を作り直し、取り付け位置も調整できるようにした。
このコントローラーはジョイスティックのレバー操作力を軽くする為、部材の軽量化をはかった。つまり、ノブを発泡スチロール製の球に交換し滑り止めにゴムのネットを張り付けたものにしてある。次に操作力を低減するために、バネの力を弱くして、さらに外部から簡単に調節できるように改造しておいた。最後にレバーの付け根についているゴムのジャバラを取り去り、無接触型のおわんを伏せたような仕様のプラスチックカバーに変更したものである。
改造を進める内に思いのほか時間がかかることが予想されたので、PTのB先生に相談するとPTのI先生を紹介して頂いた。I先生はわざわざ夜10時近くまで別室で自分の仕事をして、私に作業時間を与えてくださった。感謝です。作業の一部を残してこの日は夜の10時に切り上げた。 (もくじへ戻る)
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6.
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「微調整1
(ジョイスティック制御部と電源スイッチ)」
翌6日8時から昨日の続きを開始。Aさんの体力の限界に合わせて、車椅子の上では15分で全ての決定して行かねばならない。昨日改造の微調整と確認のため乗って頂く。コントローラーの位置をミリ単位で調整して固定する。シーティング調整して固定する。
電源スイッチ操作力ももっと軽くしないと押せないということで、弱い力でも押せるよな部品を持参してきていたが、これでもまだ強いということで、さらに弱い力で操作できるスイッチを求めて東京の秋葉原まで走る。幸い東京で知り合いの車椅子店に寄ったところ、弱い操作力のスイッチが手に入ったのでこれをもって病院に戻る。
電源スイッチについては、操作力を軽くして、位置の移動が出来るようにしたシートスイッチをマジックテープにより最適の場所に貼り付けた。この位置は後で変更できるように余分のコードが着いている。
この軽量化したパイロットのコントローラーに換えたことで、操作性はよくなり、特に直進性に大幅な改善が見られた。つまり安定してまっすぐ走れるようになったということである。
(※
直進性が悪いと乗る人はこまかく方向を修正しないと真っ直ぐ走れない。 その結果無駄に体力が使われ長時間走れなくなる。
このAさんは、他社から購入したのですがレバー操作力を弱くしても操作が出来なかったので、業者さんが改良に限界を感じてAさんとの関係を終了してしまったということがあった。
体力の限界まで来てしまった人に対して操作力を弱くするだけでは不十分である。
基本的に電動車椅子の直進性がよくなければ真っ直ぐ走るだけで体力が無駄に使われて電動車椅子を乗れなくなってしまうのである。) (もくじへ戻る)
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7.
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「微調整2 (座り心地)」
座り心地については、座席を後方に3cm移動して、背もたれの角度をAさんが安楽になる角度にフィッティングした。肘掛も後方へ移動して、高さも調整して快適といわれる位置に固定できた。さらに肘掛パッドを外側へ移動して、肘を置いたときの安楽性を高めた。
この改造により、重心位置が後方へ移動したので、重量配分が改善され操作性と乗り心地が大幅に改善された。 (もくじへ戻る)
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8.
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「成果」
今回の改造にAさんは大満足で、安心して病院の中を移動できるようになったと大喜びである。病院の方も、もうこれ以上改造できないと思っておられたのが最適に改造できるということを目の当たりにして驚いておられた。
最後の7日はこれまでの15分の制限時間を越えて30分以上も車椅子に乗っていただいた。これもシートの改造がうまくいき、最高に良い位置が得られたおかげであろう。Aさんのうれしそうな顔に満足してH病院を後にした。Aさんは病棟の出口まで車椅子に乗って見送りに来てくださった。
結局、改造とフィッティングで丸3日かかったことになる。でもAさんのうれしそうな笑顔が忘れられない。 (もくじへ戻る)
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詳しくは、アローワンまでお問い合わせ下さい。
TEL:0774-25-6614
FAX:0774-25-6768 メール |